✍ 古家あきら | 2026-08-25 更新

「金利0.5%上昇で赤字企業率29.4%」— 借入に頼る会社を応募前・取引前に見抜く方法

本日(2026年8月25日)、東京商工リサーチが中小企業32万1,953社を対象にした「金利上昇」の業績影響試算を公表しました。金利が0.50ポイント上がると、赤字企業率は27.7%から29.4%へ悪化するという内容です。

先に結論を書きます。この試算がいちばん効いてくるのは、「事業の中身」ではなく「お金の借り方」で決まる会社です。 悪化幅が突出したのは不動産業(21.7%→27.0%、5.3ポイント悪化)。逆に情報通信業は0.9ポイントしか動きません。同じ金利上昇でも、業種によって効き方が5倍以上違う。

そして、ここからが本題です。この試算の対象になった32万社は、実在する法人のごく一部にすぎません。 しょくばログには全国5,791,529件の法人が収録されていて、登記が閉鎖されていない「現存法人」は約502万件。32万社は、そのうちの6%強です。裏を返すと、あなたの応募先・取引先の9割以上は、そもそも損益を外から見る手段がありません。この記事は、その9割にどう向き合うかの話です。

公表された数字(出典つき)

東京商工リサーチの試算は次のとおりです。対象は2025年(1-12月期)の決算を取得できた中小企業のうち、財務データ上に有利子負債が計上されていた32万1,953社。推定支払利子率・推定受取利子率にそれぞれ0.25〜1.00ポイントを一律に加えて試算したものです。

背景として、日本銀行は7月の金融政策決定会合で政策金利を1.0%に据え置いたものの、今後も利上げを続けて金融緩和の度合いを調整する方針を示しています。同会合では、利上げの影響が実体経済に波及するまで1年から1年半程度のタイムラグがあるとの意見も出ています。つまり、すでに上がった分の効きめが出るのはこれからということです。

出典:東京商工リサーチ TSRデータインサイト「金利0.50%上昇で、赤字企業率は29.4%に悪化」(2026年8月25日)

産業で「効き方」が5倍以上違う

0.50ポイント上昇時の赤字企業率は10産業すべてで悪化しますが、幅がまったく揃いません。

理由は単純で、不動産業は土地・建物という高額な資産を借入で買う構造だからです。事業が順調でも、金利は容赦なく残高に掛かる。逆に情報通信業は主な原価が人件費で、大きな借入を前提にしません。「儲かっているか」ではなく「いくら借りて回しているか」で明暗が分かれる、というのがこの表の読み方です。

中分類まで降りると、もっとはっきりします。0.50ポイント上昇時に赤字企業率の悪化幅が最大だったのは水産養殖業(19.6%→26.7%、7.1ポイント悪化)。次いで不動産取引業が5.8ポイント、不動産賃貸業・管理業が4.7ポイントでした。養殖は設備と生育期間に先行投資が要る——ここも「事業の質」ではなく「資金の寝かせ方」の話です。

見落としやすい「ねじれ」:平均利益は増えるのに、赤字の会社は増える

この調査でいちばん面白いのは、建設業と情報通信業に起きている逆転現象です。

0.50ポイント上昇時、建設業の平均経常利益はわずかに増えます(1,733万3,000円→1,733万6,000円、3,000円増)。情報通信業も4,079万1,000円→4,097万3,000円と18万2,000円増える。金利が上がると受取利息も増えるので、手元資金の厚い会社では利息収入の伸びが利払いの伸びを上回るからです。

ところが、同じ条件で赤字企業率は悪化します。建設業は30.5%→31.7%、情報通信業は24.7%→25.7%。

これは統計を読むときの急所です。平均値は「現金を厚く持つ一部の会社」に引っ張られ、企業数で数えると「借入が重い会社」のほうが多い。 業界の平均が良好でも、その業界にいる自分の勤め先が同じとは限らない。ニュースで「◯◯業界は堅調」と読んだときに、この構造を思い出してください。

地区別:赤字が多い地域と、悪化が大きい地域は一致しない

地区別も9地区すべてで悪化しますが、順位が入れ替わります。

近畿は2025年の赤字企業率が23.8%と9地区で最も低いのに、悪化幅は最大でした。「もともと赤字が少ない地域=金利に強い地域」ではない、ということです。

32万社の外側にいる、502万件の会社

ここでしょくばログのデータに戻ります。当サイトは国税庁の法人番号公表データをもとに、全国5,791,529件の法人を1社1ページで収録しています。うち登記が閉鎖されているのは762,832件(13.2%)。現存する法人はおよそ502万8,000件です。

今回TSRが分析できたのは、そのうち決算データが取得でき、かつ有利子負債が計上されていた32万1,953社。現存法人の約6.4%にあたります。

残りの9割超は、こういう状態です。

つまり、普通の中小企業について「借入がいくらあるか」を無料で知る方法は、原則としてありません。 これは調べ方が下手なのではなく、そういう制度になっているということです。

参考までに、当サイトの収録データで日本標準産業分類が判明している法人135万450件のうち、不動産業・物品賃貸業に分類されるのは85,749件(うち登記閉鎖11,944件、閉鎖率13.9%)。全法人の閉鎖率13.2%と比べて、極端に高いわけではありません。「金利に弱い業種=すでに潰れている業種」ではないことは押さえておいてください。金利上昇の影響はこれから効くもので、過去の登記データには出ていません。

決算書が無いときに、無料で拾える「借入依存」のヒント

損益は見えない。それでも手掛かりはゼロではありません。応募前・取引前に無料でできるのは、この5つです。

1. 業種を確定させる。 「不動産関連か、設備投資型の製造・養殖か、それとも人件費中心のIT・サービスか」で、金利の効き方が数倍違います。会社概要の書き方は曖昧なことが多いので、会社の業種を調べる方法の手順で許認可・求人内容まで含めて確かめてください。

2. 資本金を見る。 資本金は借入額そのものではありませんが、自己資本の厚みの目安にはなります。ただし資本金が大きいのに倒産する会社があるとおり、単独では判断材料になりません。確認手順は会社の資本金を調べる方法へ。

3. 設立時期を見る。 設立が新しい会社ほど、内部留保が薄く借入依存になりやすい傾向はあります。会社の設立年を調べる方法で登記情報から確認できます。

4. 実在と登記の状態を確認する。 これは無料で確実に分かる数少ない事実です。会社の実在・倒産を確認する方法にまとめています。

5. 取引先としてなら、有料の調査を検討する。 継続的な取引や与信枠の設定が絡むなら、無料の情報だけで判断するのは無理があります。相場は信用調査の費用相場、進め方は取引先の信用を調べる方法を参照してください。

やってはいけない読み方

最後に、この手のニュースで起きがちな誤読を挙げておきます。

「不動産業だから危ない」は言い過ぎです。 今回の数字は32万社を一律の前提で試算した平均であって、個別企業の実態ではありません。借入がほとんど無い不動産会社もあれば、借入で回している情報通信会社もあります。統計は「どこに負荷が偏りやすいか」を教えるだけで、目の前の1社については何も語りません。

「赤字=倒産」でもありません。 赤字企業率29.4%というのは、単年度の経常損益がマイナスになる会社の割合です。赤字でも手元資金と借入枠があれば事業は続きます。逆に黒字でも資金繰りが詰まれば止まります。損益と資金繰りは別物です。「経営が危ないのでは」と感じたときにまず確かめるべきは損益の推測ではなく、会社の実在・倒産の確認という事実のほうです。

よくある質問

金利が上がると、なぜ赤字企業が増えるのですか?

中小企業は大企業と違って、株式や社債での直接調達より金融機関からの借入への依存度が高いためです。東京商工リサーチの試算では、2025年1-12月期の中小企業の平均支払利息は450万3,000円、平均受取利息は207万円。金利上昇は受取利息も押し上げますが、企業数で数えると支払利息の増加が上回る会社のほうが多いため、赤字企業率が悪化する結果になっています。

自分の勤め先の借入額を無料で調べられますか?

上場企業でなく、会社法上の大会社にも当たらない中小企業については、原則として無料で確認する手段はありません。決算公告を官報に出している会社であれば貸借対照表の要旨が見られますが、実際に公告している中小企業は限られます。無料で確実に分かるのは、法人としての実在・登記の状態・所在地・設立時期までです。

「赤字企業率29.4%」は実際に起きたことですか?

いいえ、試算値です。金利が0.50ポイント上昇した場合を仮定して、2025年の決算データに一律の利子率上昇を当てはめたシミュレーションです。実際に赤字企業率がこうなったという実績値ではありません。ニュースの見出しだけを見て確定事項と受け取らないでください。

業種が金利に弱いかどうか、どこで見分けますか?

大まかには「事業のために大きな資産を借入で持っているか」です。不動産(土地・建物)、製造業(設備)、水産養殖(生育期間中の先行投資)は借入が重くなりやすい。一方、情報通信やサービス業は主な原価が人件費で、借入前提になりにくい。ただしこれは業種の傾向であって、個社の実態は会社ごとに違います。

転職先を選ぶとき、この数字はどう使えばいいですか?

「この業種は避ける」という使い方はおすすめしません。使えるのは面接での質問設計です。設備投資型の業種を受けるなら、「直近の設備投資と、その資金の考え方」を聞けば、相手の答え方から姿勢は読み取れます。事前準備の全体像は面接前の会社研究チェックリストにまとめています。

まとめ

2026年8月25日公表の東京商工リサーチの試算は、金利0.50ポイント上昇で中小企業の赤字企業率が27.7%→29.4%、不動産業は5.3ポイント悪化で突出、情報通信業は0.9ポイントにとどまる、という内容でした。効き方を決めているのは事業の良し悪しではなく借入への依存度です。

そして建設業・情報通信業では「平均経常利益は増えるのに赤字企業率は悪化する」というねじれが出ています。平均は現金の厚い会社に引っ張られる。数で見ると借入の重い会社のほうが多い。 業界平均が良くても、自分の会社が同じとは限りません。

なお、貸し手の側から見た同じ局面については、中小企業向け貸出が初の400兆円超にまとめました。借入コストが重くなる局面と、銀行が貸出を伸ばす局面は同時に来ています。

もっとも、この試算の対象32万社は、現存する法人502万件の6%強にすぎません。残りの会社については、損益を外から見る手段が制度上ありません。だからこそ、無料で確実に分かることから固める——実在するか、登記は生きているか、いつ設立され、どこにあり、どんな募集を出しているか。

しょくばログは、全国の会社を1社1ページにまとめ、登記情報・所在地・求人などを無料で確認できます。気になる会社があるなら、業界の統計を読む前に、まず会社名で検索してみてください。

※本記事は2026年8月25日時点で公表されている情報にもとづく整理です。金利上昇の影響に関する数値は東京商工リサーチ TSRデータインサイトの公表値(試算値)、法人件数・登記閉鎖・産業分類の集計は国税庁の法人番号公表データにもとづく当サイトの集計です。産業分類は当サイトで分類が判明している法人に限った集計のため、実際の業種別法人数はこれより多くなります。特定の企業の経営状態を評価・断定するものではありません。

古家あきら
全国の会社データベース「しょくばログ」を運営しています。会社の登記・求人・クチコミのデータと毎日向き合う中で気づいた“会社の調べ方”を、現場の目線で書いています。

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