✍ 古家あきら | 2026-08-22 更新
「上場企業の平均年収778万円」は800社に1社の話 — 非上場の会社の年収をどう読むか
「上場企業の平均年収は778万円」というニュースを見て、自分の年収や応募先の提示額と比べてがっかりした人がいるかもしれません。その比較は、そもそも土俵が違います。
先に結論から。この778万円は「上場している事業会社3,123社」の平均であり、しかもその3,123社ですら6割超は700万円未満です。 非上場の会社を受けるなら、この数字は基準にしてはいけません。代わりに見るべきは、①求人票の給与レンジの下限 ②賞与の「実績」表記 ③同業・同規模の相場の3つです。
しょくばログという会社データベースを運営していると、「この会社の年収っていくらですか」という質問を毎日のように受けます。答えは大半の会社について「公開されていません」です。今日はその理由と、では何を見ればいいのかを、昨日発表された調査を起点に整理します。
何が発表されたのか(2026年8月21日・東京商工リサーチ)
東京商工リサーチが2026年8月21日に公表した調査によると、上場企業3,123社の2025年度の平均年収は778万7,744円。前年度比4.0%増で、5年連続の増加となりました。
集計の対象は、2026年8月14日までに有価証券報告書が判明した上場企業のうち、変則決算の企業と持株会社を除いた事業会社3,123社です。
出典:東京商工リサーチ「上場企業の『平均年収』30万円増の778万7,744円 1位はヒューリックの2,295万円、不動産・商社など堅調」(2026年8月21日)
主な内訳は次のとおりです。
市場別の平均年収
- 東証プライム:815万6,000円(初めて800万円を突破)
- 名証プレミア:745万4,000円
- 名証メイン:662万8,000円
- アンビシャス(札証):449万4,000円
業種別の最高と最低
- 最高:建設業 953万5,000円
- 最低:小売業 550万8,000円
- その差は 402万7,000円
企業別トップ3
1. ヒューリック:2,295万4,000円 2. M&Aキャピタルパートナーズ:2,265万8,000円 3. キーエンス:2,178万3,000円
「平均778万円」の落とし穴は、同じ調査の中に書いてある
このニュースで最も見るべきなのは平均値ではなく、分布のほうです。同じ調査の給与帯別の企業数はこうなっています。
- 1,000万円以上:139社
- 900万円以上1,000万円未満:148社
- 800万円以上900万円未満:276社
- 700万円以上800万円未満:565社
- 700万円未満:1,995社
3,123社のうち700万円未満が1,995社。割合にすると約63.9%で、上場企業でも3社に2社は平均年収700万円に届いていません。 逆に1,000万円以上は139社、全体の約4.5%です。
平均が778万円まで上がるのは、2,000万円台の会社が上に引っ張っているからです。平均値と中央値の差が大きい分布で平均だけを見ると、実態より高い基準を頭に入れてしまいます。「平均年収」という指標は、比較対象を絞らないと使えない数字だと考えてください。
これは求人票の年収レンジでも同じ構造が起きます。「年収400万〜900万円」と書いてある求人で、900万円に届いている人が何人いるのかは書いてありません。レンジの読み方は求人票の給与の見方にまとめています。
しょくばログのデータで見ると:年収が公開されている会社は800社に1社
ここからが、うちのデータベースから見える景色です。
しょくばログには、閉鎖・除外を除いた活動中の法人が4,988,967社登録されています(2026年8月22日時点。国税庁の法人番号公表データをもとにしており、株式会社以外の法人格も含みます)。うち法人種別が株式会社のものは2,513,316社です。
一方、今回の調査で平均年収が判明したのは3,123社。活動中の株式会社の数で割ると、約800社に1社という計算になります(2,513,316 ÷ 3,123 ≒ 805)。活動中の法人全体(498万社)で割れば、約1,600社に1社です。
つまり、日本の会社の99.8%以上は「平均年収が公表されていない会社」です。有価証券報告書の提出義務がないので、平均給与を開示する仕組みがそもそもありません。求職者が応募先の年収を調べようとして見つからないのは、探し方が悪いのではなく、存在しないものを探しているからです。
業種の偏りも同じ構造です。今回「最高は建設業」と報じられましたが、それは上場している建設会社の平均。うちのDBで業種が特定できている1,130,818社のうち、建設業は221,179社あります。上場している建設会社は、そのごく一部にすぎません。建設業の会社を受ける人が953万円を基準にすると、大きく外します。
参考までに、うちのDBで業種が判明している法人の上位はこの並びです。
- 卸売業・小売業:226,272社
- 建設業:221,179社
- 製造業:219,479社
- 学術研究・専門・技術サービス業:101,951社
- 情報通信業:77,498社
(※日本標準産業分類の大分類ベース。分類不能を除いた1,130,818社の内訳)
非上場の会社の年収を、外から見積もる4ステップ
公表されていないなら、間接情報を積み上げるしかありません。実務的にはこの順番が効率的です。
① 求人票の給与レンジの「下限」を基準にする
上限は採用のための見出しであることが多く、下限のほうが実態に近いことが大半です。特に見るべきは固定残業代が含まれているか。「月給30万円(固定残業45時間分を含む)」なら、基本給は実質22万円台まで下がります。同じ「年収500万円」でも中身がまったく違います。
② 賞与が「実績」で書かれているかを見る
「賞与年2回」だけの記載は、金額の約束を何もしていません。「賞与年2回(前年度実績4.2ヶ月)」のように実績月数が書いてある会社は、開示する自信があると読めます。書いていない会社が悪いとは言い切れませんが、面接で「直近3年の支給実績」を聞く価値はあります。
③ 会社の規模と売上から上限を推し量る
年収は会社の稼ぎの範囲を超えません。従業員数と売上が分かれば、一人あたりの粗い水準が見えます。従業員数の調べ方は会社の従業員数を無料で調べる4つの方法、売上は決算公告やEDINETを使う会社の売上高を無料で調べる方法にまとめています。規模感の掴み方全般は会社の規模の調べ方を参照してください。
④ 同業・同規模・同地域の相場に当てる
比べる相手を「上場企業の平均」ではなく、同じ業種・同じ従業員規模・同じ都道府県の会社に置き換えます。これで初めて、提示額が高いのか安いのかが判断できます。業界内での位置づけは会社の業界順位を調べる方法が参考になります。
なお、額面年収だけで比べるのも危険です。家賃補助3万円は年36万円、社宅ありなら実質もっと大きい。福利厚生の確認方法は会社の福利厚生を無料で調べる方法にあります。
よくある失敗3つ
1. クチコミサイトの「平均年収」を実額として信じる
投稿者の属性(職種・年次・役職)がバラバラなうえ、待遇に不満がある人ほど投稿しやすい偏りがあります。数字そのものより、「残業代が出るか」「賞与が実績どおりか」といった仕組みに関する記述のほうが使えます。読み分け方は会社の評判・口コミの調べ方にまとめました。
2. 上場企業の業種平均を、非上場の同業に当てはめる
今回の建設業953万5,000円がまさにそれです。上場している建設会社は元請けの大手が中心で、母集団がまったく違います。
3. 初年度提示額だけで判断する
昇給の刻みが分からないと5年後が読めません。「モデル年収」や「等級ごとのレンジ」が提示できる会社は、制度が整っている可能性が高いといえます。面接前の準備は面接前5分でできる会社研究チェックリストをどうぞ。
よくある質問
非上場企業の平均年収はどこかで公開されていますか?
原則として公開されていません。有価証券報告書での平均給与の開示は上場企業などの提出義務がある会社に限られ、活動中の株式会社251万社のうち今回集計対象になったのは3,123社(約800社に1社)です。そもそも応募先が上場しているかどうかは会社が上場しているか確認する方法で数十秒で判定できるので、まずそこを確かめてください。非上場企業については、求人票の給与レンジ・賞与実績・同規模同業の相場から推定するのが現実的な方法になります。
平均年収が高い会社は良い会社ですか?
一概には言えません。平均年収は平均年齢・職種構成・残業時間に強く影響されます。平均年齢45歳の会社と28歳の会社では、同じ制度でも平均額が大きく変わります。有価証券報告書には平均年齢と平均勤続年数も併記されているので、金額だけを抜き出さず3点セットで見てください。
求人票の年収と実際の年収がずれるのはなぜですか?
多いのは、固定残業代を含んだ表記、賞与を「見込み」で年収に足した表記、みなし管理職としての提示の3つです。求人票で書かれていないことの読み方は求人票の見方にまとめています。
業種によってここまで年収差が出るのはなぜですか?
今回の調査では建設業953万5,000円と小売業550万8,000円で402万7,000円の差がありました。一般には、一人あたりの粗利、資格の必要性、労働集約度、平均年齢の違いなどが影響します。ただしこれは上場企業内の比較であり、同じ業種でも非上場・中小の水準は別に確認する必要があります。
面接で年収を聞くのは失礼ですか?
条件確認は当然の質問です。ただし聞き方で印象は変わります。「いくらもらえますか」より、「このポジションの想定年収レンジと、レンジ内でどう決まるかを教えてください」「賞与の直近実績はどのくらいですか」のほうが、業務理解の質問として自然に受け取られます。
まとめ
2026年8月21日に発表された調査は、上場企業3,123社の平均年収が778万7,744円、5年連続増という内容でした。読みどころは平均値ではなく、同じ調査に載っている「700万円未満が1,995社(約63.9%)」という分布のほうです。
そして、そもそも平均年収が公表されている会社は、活動中の株式会社2,513,316社のうち3,123社。約800社に1社しかありません。あなたが受ける会社の年収がネットで見つからないのは、普通のことです。
見つからない前提に立って、求人票の給与レンジの下限・賞与の実績表記・会社の規模と売上・同業同規模の相場の4点を積み上げてください。上場企業の平均と自分を比べるより、はるかに実用的な判断ができます。
※本記事は公表済みの調査結果と公開データにもとづく一般的な情報です。個別企業の給与水準を保証・断定するものではありません。実際の条件は必ず労働条件通知書でご確認ください。