✍ 古家あきら | 2026-08-20 更新
人手不足倒産が過去最多ペース — 「人が辞めて潰れる会社」の見分け方
会社が潰れる理由といえば「売上が落ちた」「資金繰りが詰まった」が定番でした。ところがいま増えているのは、仕事はあるのに人がいなくて潰れるという逆パターンです。
先に結論から。応募先・取引先が危ないかどうかは「求人が長期間出っぱなしか」「同じ職種を何度も募集していないか」「主要な担当者が短期間で入れ替わっていないか」の3点でかなり見抜けます。 決算書が読めなくても、公開情報だけで確認できるポイントです。
しょくばログという会社データベースを運営していると、「この会社、大丈夫ですか?」という質問を本当によく受けます。今日は2026年8月に出たばかりの2つの調査を起点に、その見分け方を整理します。
何が起きているのか(2026年8月発表の2調査)
①正社員が足りない会社は半数超、4年連続
帝国データバンクが2026年8月17日に発表した「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」によると、正社員が不足していると答えた企業は51.3%(前年同月比+0.5ポイント)。7月としては4年連続で5割を超えました。非正社員の不足は28.8%です。
業種別に見ると偏りがはっきりしています。
- 正社員不足の上位:金融 67.1%(前年同月比+6.4pt)/建設 66.0%(−2.1pt)/運輸・倉庫 65.6%(+1.7pt)
- 非正社員不足の上位:飲食店 57.7%/人材派遣・紹介 56.8%/メンテナンス・警備・検査 56.8%
調査は2026年7月17日〜31日に実施、有効回答は1万518社です。 出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」(2026年8月17日)
そして同じレポートで、2026年上半期の人手不足倒産は227件。上半期としては5年連続で前年を上回り、過去最多を更新しています。
②「従業員が辞めたことが直接の引き金」の倒産が83件
もう1本、2026年8月7日発表の調査がより具体的です。従業員の退職が直接の原因で倒産に至った「従業員退職型」倒産が、2026年1〜7月で83件(前年同期74件)。5年連続の増加で、2025年通年の124件を超えるのは確実な見通しとされています。
業種別の内訳は、サービス業22件・建設業20件・運輸・通信業12件。建設業は1〜7月として初めて20件台に乗り、運輸・通信業も前年同期の8件から12件へ増えて1〜7月で初の10件超えとなりました。 出典:帝国データバンク「『従業員退職型』の倒産動向(2026年1-7月)」(2026年8月7日)
ポイントは、この倒産の直前まで会社は「求人を出している」ということです。人が足りないから募集している。募集しても採れない、あるいは採る前に残った人が辞める。だから止まる。求人が出ている=元気な会社、とは限らないわけです。
しょくばログのデータから見える景色
うちのDBの数字も並べておきます(2026年8月20日時点)。
- 掲載している現存法人:4,988,967社
- そのうち業種まで判別できているのは 1,130,818社(約22.7%)。残る385万社は業種すら公的データに出ていません
- 建設業 221,179社、運輸・郵便 44,370社
- 保有する登記レコード全体(5,791,529件)のうち、すでに登記が閉鎖された法人は762,832件=約13.2%
ここから2つ言えることがあります。
ひとつは、母数あたりで見ると運輸・通信のほうが深刻だということ。従業員退職型倒産は建設20件・運輸12件と件数では建設が多いのですが、会社の母数は建設が22万社、運輸が4.4万社と5倍の開きがあります。件数の大小だけで「建設が一番危ない」と読むのは早計です(※集計の母集団定義が違うため、あくまで目安)。
もうひとつは、大多数の会社は外から見えないということ。業種すら分からない会社が8割近くある世界で、「売上が」「利益が」と探しても出てきません。だから見るべきは決算ではなく、採用の動き方なんです。
応募者向け:求人票から読み取る3つのサイン
① 同じ求人が3ヶ月以上出っぱなし
採用がうまくいっていない証拠です。1〜2ヶ月なら普通ですが、半年出ているならその職場で何かが起きている可能性があります。求人サイトの掲載開始日、または会社の採用ページの更新日で確認できます。
② 同じ職種を年に何度も募集している
これは「採れていない」ではなく「採ったのに辞めている」サインです。募集人数1名の求人が年3回出ているなら、その席は年3回空いたということ。詳しくは会社の離職率を調べる方法にまとめています。
③ 募集職種が「現場の中核」に偏っている
事務や補助職ではなく、施工管理・ドライバー・整備士・介護職員など、その事業が回らなくなる職種ばかり募集しているとき。従業員退職型倒産で多いのは、まさにこのタイプの人材が抜けたケースです。有資格者が1人辞めただけで営業許可の要件を満たせなくなる業種(建設業の専任技術者、運送業の運行管理者など)は特に要注意です。
求人が急に消えた場合の読み方は求人が突然消える理由を参照してください。
取引先向け:与信の前に見るべきこと
BtoBで新規取引を始めるとき、まず登記の実在確認と閉鎖有無を見るのが基本です(会社が実在するか確認する方法)。そのうえで、人手不足倒産の文脈では次を足してください。
- 納期の遅れが増えていないか:人が抜けた最初の兆候は納期に出ます
- 担当者が短期間で何度も変わっていないか:離職が進行中のサイン
- 繁忙期に受注を断り始めていないか:能力の限界=人がいない
- 求人の内容が「未経験歓迎」に急変していないか:経験者採用を諦めた=採れていない
確度の高い財務数字が必要な場面は、帝国データバンクや東京商工リサーチの有料調査が確実です。無料でできる範囲の整理は取引先の信用を調べる方法にまとめています。
ただし「人手不足=ブラック」ではない
ここは誤解されやすいので、はっきり書いておきます。今回の調査で不足率トップは金融の67.1%でした。金融がブラックだから人が足りない、という話ではありません。事業が伸びている、退職者の穴が構造的に埋まらない、そもそも業界全体で人が足りない——理由はいくらでもあります。
危ないのは「人手不足そのもの」ではなく、「人手不足なのに何も変えていない状態」です。給与を上げた、シフトを見直した、業務を外注した、といった打ち手が見えている会社は、募集が続いていても健全なことが多い。面接で「この職種は何名体制で、直近1年で何名増えましたか」と聞けば、その差はかなり分かります。
よくある質問
人手不足倒産と普通の倒産はどう違いますか?
売上や資金繰りではなく、人材の確保・定着ができないことが直接の引き金になった倒産を指します。帝国データバンクの分類では、後継者不在型・従業員退職型・求人難型・人件費高騰型などに分かれます。今回の2026年1〜7月で83件という数字は、そのうち「従業員退職型」だけを数えたものです。
求人が出ている会社は安全ということですか?
いいえ。むしろ従業員退職型倒産の直前は求人が出ていることが多いです。見るべきは求人の有無ではなく、同じ求人が続いている期間と、繰り返しの頻度です。
会社の従業員数はどこで調べられますか?
公式サイトの会社概要、求人票、gBizINFO、上場企業なら有価証券報告書。手順は会社の従業員数を調べる方法にまとめています。ただし非上場の中小はデータが無いことが大半で、うちのDBでも従業員規模まで分かるのは146,479社にとどまります。
面接でこういうことを聞いても失礼になりませんか?
「離職率は?」と直球で聞くと構えられますが、「配属予定チームの人数構成」「直近の入社・異動の状況」「繁忙期の残業の実績」なら業務理解の質問として自然です。準備の型は面接前の会社研究チェックリストにあります。
中小企業の経営側としては何をすべきですか?
この記事は求職者・取引先向けですが、経営側の視点でひとつだけ。従業員退職型倒産で共通するのは、特定の1人に業務が集中していたことです。属人化した業務の棚卸しと、資格要件を満たす人員の二重化は、採用より先に手を付けられる対策です。
まとめ
2026年8月に出た2つの調査は、「人が足りない」が景気の話から倒産の話に変わったことを示しています。正社員不足51.3%、上半期の人手不足倒産227件、従業員退職型倒産は1〜7月で83件。いずれも過去最多ペースです。
応募先・取引先を見るときは、決算より先に求人の出方を見てください。長期間の出っぱなし、同じ職種の繰り返し募集、中核職種への偏り——この3つが重なっている会社は、外からでも危険信号を読み取れます。
なお、その後に公表された2026年7月の集計では人手不足倒産が前年を下回り、代わりに物価高倒産が過去最多を更新しました。主因の入れ替わりと、倒産統計に映らない会社の終わり方は倒産1,037件は「17年ぶり」水準 — でも会社が消える出口は倒産だけではないにまとめています。
会社の基本情報の調べ方は会社の評判を調べる方法、規模感の掴み方は会社の規模を調べる方法もあわせてどうぞ。
小規模な飲食店で同じことが起きている例は、中華料理店の倒産が15年で最多にまとめました。
なお、同じ「人手不足倒産」でも調査会社によって件数が2倍違うことがあります。統計そのものの読み方は人手不足倒産は63件?30件?にまとめました。
※本記事は公表済みの調査結果と公開データにもとづく一般的な情報です。個別企業の信用状態を断定するものではありません。取引や投資の判断が必要な場面では、帝国データバンク・東京商工リサーチ等の信用調査をご利用ください。